「母は亡くなりました。父は外国にいます。」
その表情はどうともとれないものだ。
何がある。
それを俺は押し黙る。
それぞれ抱えるものはあるのだから・・。
君にとどけ 11
「姉ちゃん・・今日どこ行くんだ?」
「ちょっと遊びに行くのよ。」
「ちょっとって何だよ・・。」
怪訝な顔の一つ下の弟に私は笑顔で答える。
いやはっきり言えばいいのだけど・・・。
異性の兄弟にはなんだか言いだしづらい。
「夕方には戻るからね。今日はの大好きなハンバーグかなv」」
「マジか!気をつけて行ってこいよ!
ってしまった!!」
ドアを閉め、待ち合わせ場所まで走る。
時間まで後少しだ。
今日のことを考えると自然と笑みが出る。
『出かけるか。』
『え?本当ですか!』
『出かけるとしか言ってないのに、本当に欲のない奴だ。』
と今日はつまり、ローさんとお付き合いして初めてのデート!
いちおう身だしなみにも気を使ったはずだ。
「大丈夫。大丈夫。」
「何をやってる。」
「ローさん!?おはようございます。」
「あぁ。」
顔をあげればローさんが立っていた。
私服姿・・初めて見た。
かっこいい。
「何だ?」
「いえ。」
こんな人と歩いていいんだろうか。
ちょっと不安になった。
「大丈夫。大丈夫。」
何を唱えてるんだこいつは・・。
声をかければ驚いて、その後は俺を見て固まる。
「何だ?」
「いえ。」
普段ははっきり物を言わないの性格はわかっているが・・。
「すいません。」
「は?」
「いえ、一緒に歩くのが申し訳ないなと・・。」
何を言い出すのかと思えば・・・。
本当にわかってねぇ。
通り過ぎる際に向けられる視線を、
その意味を。
「十分だ。行くぞ。」
「え?はい!」
どこか決まっている場所に行くでもなく
その後は色々な店をめぐったりした。
「その・・帰りにスーパーによってもいいですか?」
「スーパー?」
夕方になり時間を気にしてが俺に聞く。
「夕飯の材料を買いたいんです。この近くのスーパーは色々なものが
売っていて便利なんですよ。」
夕飯の材料・・。
その言葉に意外だと感じる。
の育ちの良さ、親が医者というあたりから、親と一緒の生活だと思っていた。
「好きにしろ。」
「ありがとうございます!今日はと約束したから、ハンバーグの材料を」
「待て。」
「はい。」
・・男の名前か?
何がおかしいのかと疑問符を頭にうかべたが俺を見る。
「あぁ言ってなかったですか。って弟です。」
同じ学校なんですよと話すこいつに、
俺は改めてのことを知らない事に気付く。
まぁそれはお互い様か。
俺も何も話していないのだから。
手際良く買い物をすませ道を歩く。
「すみません。重いのに。」
「俺には軽い。」
赤く染まる道。
夕暮れは色々なことを思い起こさせる。
「お前、親と一緒に住んでないんだな。」
「はい。」
この学校では珍しいわけじゃない。
俺自身もそうだし、の仲間の麦わら屋たちだって一人暮らしのはずだ。
「親は単身赴任か。」
「・・・・・。」
珍しく少し間が合く。
「答えられないなら」
「母は亡くなりました。父は外国にいます。」
何ともいえない表情に
俺は何があると口にできなかった。
この表情を俺はかつて見たことがある。
『といっても親は決して医者を進めなかったんですけどね。』
前に図書館で話をした時のことだ。
「別に深い意味はないですよ。父から連絡もきますし。」
いつもと少しちがう笑顔。前にでたの背中。
それぞれが抱えるものはある。
「!?」
「勝手に前に出るな。」
「・・・・・はい!」
の手をにぎれば少し驚いた後に、満面の笑みでこたえる。
今はわからない。
でもいつか・・。