「このまま2人でどこか行こうか。」
「・・・・。」
俺が見上げるとあいつは冗談だよとつぶやいた。
本気でそう思っているなんて言えなくて・・俺は黙る。
「また一緒にあの桜も、花火もみたいな。」
「見ればいいだろ。」
「ありがとう。」
そんな言葉いらねぇよ・・。
アナウンスであいつが立ち上がる。
俺は手を伸ばすけれど、その手を握ることができなかった。
Wheel 1
目を覚ますとそこはいつもと同じベッドで、
どうやら自分が夢をみていたことに気付く。
「馬鹿みてぇ。」
手まで天井に伸ばしている自分に悪態をついた。
久々に昔の夢を見た。
施設にいたころの自分と共に施設で暮らしていた女の夢だった。
名前を確かといった。
あいつは賢くて顔も悪くなかったので、
どこかの社長の娘として引き取られていった。
その別れがあの夢だ。
時計を見て、服を着替え、手近にあるものを簡単に食べ、いつものように学園へ向かう。
7歳の頃で、あの時俺はあいつが自分のことをどう思っていたか知らない。
ただ俺は、あいつのそばが心地よかった。
「ガキだな。」
「何がガキさ??」
走ってきた同期のラビが興味津津に俺を見る。
「なんでもねぇよ。」
「ふーん。あっ!今日転校生来るんだぜ!!」
「・・・・。」
別にどうでもいいのでなにも言わず、門をくぐる。
ラビが何か色々話していたのに、俺は朝の夢のせいでどこか
集中していなかった。
「ていうわけで、転校生を紹介しちゃうよ!」
いつもながら、テンションの高い担任がうぜぇ・・。
特に興味もなく窓に視線をやる。転校生が入ってくると
教室がざわつき、口ぐちに綺麗だなんだという声が聞こえた。
「です。昔このへんにも住んでたことがあ・・・ユウ?」
俺はその声と、自分の名を呼ぶ声に視線を前に立つ女に向けた。
黒く長い髪、色白なその姿、ただひどく・・女になっているその姿に
俺は茫然と見つめた。
「あっれ〜?神田君の知り合いなのかな??」
「はい。幼馴染です。」
教室のざわつきが何倍にも増え、はっとして居心地が悪くなる。
「少しずれてしまいましたが、とにかくよろしくお願いします。」
そう微笑む姿に、胸に何かがこみあげた。
この学園は女が少なく、教室内のリナリーとはすぐ打ち解けた様子だった。
同時に
「って本当綺麗な顔だちしてるさ。」
馬鹿ウサギと
「ラビがいうとセクハラです。」
「なっ!ひどいさ!!」
「はどこから来たんですか?」
モヤシまでに打ち解ける。
俺は何も言わずそれを見つめる。
だいたい何をいまさら話せばいい。
結局何も話さず授業は終わってしまった。
剣道で汗を流し、夕方の部活後に道場をでるとそこにはがいた。
「お疲れ様、そして改めて久しぶりだね、ユウ。」
「そうだな。」
「少し話しをしよ。時間ある??」
「あぁ。」
しばらく歩いて、俺達は海へとでた。
ささっと簡単に砂をはらって、流れ着いた大きな木には座った。
制服が汚れるだとかいった女が過去にいた。
昔と変わらないその様子に俺はどこかほっとしたような気がした。
横に腰掛けてお互いに海を見つめる。
何も話さない時間が過ぎると、が噴き出して笑った。
「ユウって、こんなに話さなかったっけ?昔から口数は少なかったけど。」
「うっせぇ。」
「そういう所は変わらないんだけど。」
久々の間隔に慣れない。
「変わるだろ。お互い。」
何年たったと思ってやがる。
それは、どこか自分がに怒っているようで、
昔、こいつが俺に施設を去る日を告げた日と同じ気持ちだった。
未だにひきずってんのかよ・・馬鹿馬鹿しい。
「そうだね。ユウとってもかっこよくなったもの。」
「ふざけんな。」
「本気で言ってるんだよ。男の人らしくなった。」
心臓の鼓動が早いことがよくわかった。
突然こいつは何を言うのか。
素直な言葉、微笑み・・。
お前は変わらない、でもその顔は整い綺麗になった。
華奢な体は変わらないものの、女らしい体つきになり、雰囲気も変わった。
が俺を見つめる。
「ユウは・・・私のこと覚えてる?」
その声はどこか消えそうな気配をもっていた。
手で頬にふれる。
昔抱いていた気持ちが、うずき、そして変わる。
「忘れて・・ねぇよ。」
涙をうかべた微笑みに自然と体が動く。
唇が触れ合うその瞬間。
「!」
声をかけられた先には一人の男がったていた。