呼吸を整えて、よし!


「邪魔だ!」

「!!」


ユウが教室のドアの横をとおりすぎる。

普段通り、何も変わらないような光景。


「おはよう・・神田。」


ユウがちらっとこっちを見てすぐに視線をそらす。

頑張って神田って呼んだのに・・。

だめだめ!


『お前はお前らしく歩くといい。自信をもて。』


前を向いて教室にはいった。









Wheel 4










はーと息をおおきく吐く。


どうしたのそのため息。」


神田と呼ぶこと数回、思いっきり無視されている。


「そういえば、どうして神田のことファミリーネームで呼ぶようになったの?」

リナリーの耳打ちにもう一度大きなため息をついた。

目の前に歩くユウを見る。

ひどい・・。

何で平気なんだ。

ユウにとっては所詮呼び方。

どうでもいいこと。

何で・・。

苦しい、こんなに苦しいのに・・。


?」


その途端私は持っていた筆入れを思い切りユウに投げつけていた。









転校してきて仲良くなった友人のは、神田とすごく親しかった。

神田のファーストネームがそれを象徴していたのに・・

翌日の呼び方は神田へと変わっていた。

そしてこの様子・・何かがおかしい。


「そういえば、どうして神田のことファミリーネームで呼ぶようになったの?」


そう耳打ちするとは固まってしまった。


?」


心配してその顔を覗き込もうとした瞬間、は顔をあげ、

持っていた筆入れを思い切り神田に投げつけていた。


「「「!!」」」


まさかの光景に、その場にいた私、アレン君、ラビは唖然としてしまい、

当の神田は筆箱があたったところを手で触り、キッとを睨み


「っ!!てめぇ何しやが」


そこまでいって神田は止まってしまった。

ふと私がを見上げるとそこには目に涙を貯めたがいる。


「ユウ。」

「・・。」

「ユウ。」

「・・・。」


の言葉に神田は何も言わず視線を下にそらしたままだった。

何が何だかわからないという様子のラビに私も首を思い切りふる。


「ユウ、ユウ、ユウ、ユウ、ユウ!!」

「っ!!」


神田が思い切りを睨む。

は思い切り叫んだせいで、呼吸を荒くして神田を見た。


「知らないんだから!!私の中で、ユウはユウなんだから!!!」


そばの階段を走って登っていくを私も含め全員ぼーっと見つめてしまった。

あまりの騒動に脳がついていかない。


「ったく・・。」


それを神田が追いかける。


「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・なぁ、今日槍でもふるんじゃね?」

ラビの問いかけに、アレン君が思わずうなずく。

いや、それはないでしょ・・。

でもなんにせよ、おしとやかなのあの動揺っぷりと、

神田が女性を追いかける姿など

本当に信じられない光景が繰り広げられていた。









ばかみてぇ・・。

俺はなに追いかけてんだ。

階段は屋上のドアがカギがかかっているため行きどまりになっている。

あと数段あがればそこにたどりつく所で俺はとまった。

涙を流して俺を見るがそこにいる。

何で泣いてんだよ。


「・・・・・。」

「・・・・・・。」


現実を知って遠ざけた。

かつて俺をファーストネームで呼び、そばに来るのはこいつだけだった。

その名残で、ファーストネームを呼ばせるのはほんの一握りの人物のみにしていた。

それはこいつの場所を自分のどこかに残すかのような行為・・。

あきれるくらいガキで、馬鹿馬鹿しいこと。

だから昨日それを消し去ろうとした。


「ふざけんな。」


階段を上りの目の前に行く。


「やめないから。」

「やめろ。」

「嫌。」

「やめろって言ってんだろ。」

「やだ・・。」

「やめろ!!

「ユウ・・。」


こみあげる思いに耐える。

そんな声で呼ぶな。


「頭の中ぐちゃぐちゃ。お願い・・そんなこと言わないで。」


涙目で俺を見上げるに、動く人体。


こんなこと・・


苦しいだけだろ。


自分に言い聞かせるがそんなものは無意味だ。

強く腕に抱くとは俺の背中に腕をまわす。


「手間かけさすな。」

「ユウ・・・・。」

「何だ。」

「ありがとう。」




例えそれが無理だとわかっても・・。

今度はお前の手を握ろう。

そしてお前をどこにも行かせない。