「このまま2人でどこか行こうか。」
「・・・・。」
無言の彼に、冗談だよと私はつぶやく。
本気でそう思っているなんて言えない。
事実は私には代えられないのだから、彼は馬鹿馬鹿しいと思うだろう。
「また一緒にあの桜も、花火もみたいな。」
それでも願いを捨てられなくて、ここにいたいという気持ちが強すぎて・・
出た夢のような言葉に
「見ればいいだろ。」
拗ねたように彼は答えてくれた。
無理だとわかっているのに肯定してくれた。
「ありがとう。」
それで十分だった。
Wheel 2
「もしかして神田とって彼氏彼女だったの??」
「え?!そんなことないよ!」
学級への紹介が終わって、リナリーとは仲良くなった。
明るくてさっぱりしてて、かわいい女の子というのが私のリナリーへの印象。
「だって、神田がファーストネームで呼んで怒らないなんてありえないもん。」
「そう・・なの??」
「うん。だからいつもラビは神田に怒られっぱなしなのよ。
まぁラビの場合は、半分わざとやってるんだろうけど。」
ユウと呼ぶ呼び方は昔から変わらない。
昔もユウと呼んでいたし、過去を振り返っても彼はユウと呼ぶ私に対して
怒ったことはないはずだ。
でも・・そういえば、ユウと呼んでいたのは私だけだった。
『それはの良さであり、神田との絆の証だ』って言ってくれた人がいたっけ。
確かマリといった。私とユウのお兄さん的人。
「さっき言ったようにユウとは幼馴染。それに私がユウとあわなくなったのは8歳の頃だよ。
10年もたってるもの、ユウが私のことを覚えてるかも怪しいわ。」
私に反応はしていた。でもただそんな女がいたぐらいだったのかもしれない。
「ふーん、でもは神田のこと覚えてたのねv」
少し意地悪な笑みをリナリーが私に向けて
「そうだよ。だって、たぶん・・初恋だったからね。」
降参のポーズでそういうとリナリーはドラマチックvvといい一緒に笑った。
「あの頃はよくわかってなかったんだけど。たぶんそうだったのかな。」
「久々に会ってみてどう??」
髪は伸び、背も高くなっていた。
昔から綺麗だった顔立ちはより整って・・男の人らしい雰囲気をまとっていた。
「かっこよくなった。」
正直そのかっこよさに驚いて、心臓の鼓動が早くなった。
「顔赤いよ。」
「だって、ユウがあんなに男の人らしくなっていたから。」
「かわいいvv」
ぎゅっとリナリーに抱きしめられた。
「神田は今は彼女いないよ!」
今はという言葉に少し傷つく。
当然だ。あの頃から10年。
彼が女の人と付き合わないはずがないではないか。
あのかっこよさだ。女性が近づかないわけがない。
それに自分だって今は・・。
「それは無理かな。」
「どうして??」
「私ね・・・」
その先を話すとリナリーは目を見開いて驚いていた。
部活見学を一通り済ませるとちょうどユウが出てきた。
「お疲れ様、そして改めて久しぶりだね、ユウ。」
「そうだな。」
ユウと呼んでも怒らない。リナリーの言葉を思い出す。
すごく懐かしくて、もっと一緒にいたい。
「少し話しをしよ。時間ある??」
「あぁ。」
そう言うとユウは歩いて行く。その一歩後を私も歩いた。
着いた場所は海で、ちょうどよさそうな大きな木があったので私は座る。
ユウはその姿をじっと見ていて、何か考えているようだった。
横に腰掛けてお互いに海を見つめる。
何も話さないで時間が過ぎていく。
なんだかそれがおかしくって、私は噴き出して笑ってしまった。
「ユウって、こんなに話さなかったっけ?昔から口数は少なかったけど。」
彼は無口だった。そして仏頂面、短気ということで、
みんなから恐れられていたし距離を保っていたっけ。
「うっせぇ。」
「そういう所は変わらないんだけど。」
素直な感情表現に懐かしさがこみあげる。
変わってない。だけど
「変わるだろ。お互い。」
ユウは私を見て言った。どこか怒ったような口ぶりに何か怒らせたかと考える。
でも10年の時間が、彼の見た目をこんなに代えてしまったことも事実だ。
「そうだね。ユウとってもかっこよくなったもの。」
「ふざけんな。」
舌打ちするユウが少し照れているのがわかった。
「本気で言ってるんだよ。男の人らしくなった。」
あぁ・・幸せだなと思った。
こんなやりとりが、確かにあった。
胸に湧き上がる感情に、泣きそうになる。
「ユウは・・・私のこと覚えてる?」
馬鹿なことを聞いてしまった。
私は彼を忘れたことはなかった。
昔抱いていたそばにいたいという感情が好きだと気付いたのは、
彼と離れてからだった。
「忘れて・・ねぇよ。」
その言葉にユウを見る。
ユウも私をまっすぐ見つめかえした。
頬にユウの手が触れて、顔が近づく。
「!」
声をかけられてはっとして向き直るとそこにはティキがいた。
「今日、本家に帰るんだろ。乗せてくよ。」
砂浜を歩いてくるティキに少し居心地が悪くなった。
この状況、ティキはどう思うだろうか。
「それ学園の奴?」
「・・・・。」
ユウは何も言わない。
「そうだよ。昔同じ施設にいたの。」
「ふ〜ん。初めまして、俺の名前はティキ・ミック。あんたは?」
「・・・・神田ユウ。」
「その名前・・そうか。じゃぁ言っとくか。」
ティキは私を見つめる。何を言おうとしているのかはすぐわかった。
私が下をむいて首をふるけれど、こういう時の彼が聞いてくれるわけがないのを
私は知っていた。
「俺、の許嫁だから。以後よろしく。」
胸に重いものがのしかかった気持ちになった。
「、行こう。」
手をさしのべられて、それを握らなきゃいけないのはわかっている。
けれど、私はその手を握れなかった。
「すぐ行くから・・先に行ってて。」
ティキは少し驚いて、そして微笑をうかべる。
「了解しました。お姫様。」
歩いて行く背中が小さくなって、私はユウを見た。
ユウは海を見つめたままだった。
何を言えばいいのかわからないで立ち尽くす私に
「さっさと行けよ。」
ユウが私を睨むように見た。
「うん。」
ユウの言葉が痛かった・・。当然なのに、こんなに苦しい。
「なんでそんな顔してんだよ。」
「ユウ・・。」
「もうその名前で呼ぶな。」
そう言ってユウは立ち上がり、私に背を向けて歩いて行ってしまった。
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