「神田!」
俺はその声を無視して歩き続ける。
「神田!!」
先ほどより大きな声が廊下を響いた。
ったく・・。
「うるせぇ。」
With3
何を言いに来たのかと思うとこいつは唇をかむ。
こういう場合はたいてい言いにくいことを言う時だと知っている。
「さっきは・・ごめんなさい。」
つぶやかれた言葉に馬鹿だなと思う。
「教団を考えれば神田が正しかった。それに武器を向けて・・ごめん。」
仲間というものを大事にし、人を傷つけることを嫌う性格、
イノセンスの適合者になった時のこいつの誓いを俺は知っている。
だが、くだらねぇことだ。
エクソシストとして甘いその性格も、誓いも・・。
俺には理解できない。
しかもわざわざ、言いにくいのに謝る。
「くだらねぇこと言うな。」
「ありがとう。」
言ってる意味わかってんのかと言いたくなる。
だが、こいつが笑うから・・俺は何も言わなかった。
自分に・・苛々する。
背に男をかばい、敵対するこいつを見て任務帰りの気持ちの血のたぎりぐあいが強くなる。
なんでそんな奴をかばってやがる。
あまつさへ、そいつではなく俺に武器を構えるこいつに苛々した。
結局その男はエクソシストだったらしく入場が許可された。
まっ白い髪によわよわしい奴・・モヤシだな。
やけに会話の節々にそいつらはお互いに見合って何も言わないことが多い。
どうでもいい。
居心地が悪くなって俺がその場を離れるとこいつが追ってきた。
その後、こいつは昼食を俺の前で食べ、科学班の仕事に戻っていく。
「ぶっ倒れんな。」
「少しは寝るよ。」
じゃといい走っていくこいつを見て俺はため息をつく。
そう言ってぶっ倒れて何度俺に迷惑をかけてきたのか。
「少しは学習しろ。ったく・・。」
気付けば、心はだいぶ落ち着いている。
馬鹿馬鹿しい・・。
けれど、もうこの自分の状態も俺は理解している。
その感情は自分で認めたとしても、それで終わらせると決めている。
何も考えず、集中する、鍛練をするために俺は森へと向かった。
夜明けまで鍛練を続け食堂に向かう。
精神が落ち着いているというのに、後ろの席ではめそめそと
泣く声が聞こえる。気分が悪い。
「死ぬのが嫌なら出ていけよ。お前ひとり分の命くらい、いくらでも代わりはいる。」
そう言った途端、
パン!
と頬に痛みが走った。
「なんてこと言うの。」
そこにはの姿がある。
そしてその顔はいまにも涙を流しそうだった。
「命の代わりなんてない。」
「代わりなんかどうにでもなるだろ。ここではな。」
その言葉にこいつは傷ついた顔をした。
面倒だ。
「ストップ。関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ。」
モヤシが俺とこいつの間に入る。こいつの表情は見えない。
「はっ、一か月で殉職なかったら覚えてやるよ。ここではたぱた死んでくやつが多いからな。こいつらみたいに。」
「神田。」
振り絞るような声が聞こえる。
「だから、そういう言い方はないでしょう。」
「アレン・・。」
腕を強くつかまれ、俺は今までつかんでいたファインダーを離した。
正直こいつはどうでもよかったからという意味もある。
はモヤシの裾をつかんでいる。
甘いやつらばかりだ。
よりにもよってコムイのアホは、モヤシと俺に任務をいいつけやがった。
は別任務で呼びつけられていた。
こいつはあれから俺を見ようとしない。
表情は先ほどとはうって変わって微笑んでいる。
なら最初からあんな表情すんな。
舌打ちしたくなる感情を俺は呑み込んで任務へと旅立った。
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